研究の初年度である本年度は、高機能な聴覚ディスプレイを実現する基礎となすために、以下に示すように、数値計算手法の基本部分の作成と確認を行った。 ・電磁界解析に用いられているFD-TD法の差分スキームを音場の方程式に対応して書き直し、時間領域差分法による音場計算用のプログラムを作成した。 ・球体による平面波の散乱を正準問題として解き、その厳密解との比較により計算の安定条件、吸収境界条件の与え方、励振方法などについて、適した条件を明らかにした。 ・単純化した回転楕円体頭部モデルによりHRIR(頭部インパルス応答)を計算し、人間の男声「もしもし」を音源としてヘッドホン提示用音声を作成した。これを被験者に提示し音像定位を測定した結果、水平方向の定位はほぼ理論どおりの結果が得られた。 ・本研究では、音声信号にディジタル信号処理を施すため、その音像定位への影響についても、心理物理実験により調べた。その結果、10kHz付近の成分が音像定位に重要であること、ディジタルフィルタの形式によって違いがあることなどを明らかにした。 ・音像定位に関連の深い波形の時間情報が与えるその他の聴覚属性としての、ピッチ感覚についても検討を行い、周波数情報と時間情報がそれぞれピッチの明瞭性に与える影響を心理物理実験的に調べた。 以上の結果を踏まえ、時年度は計算モデルに要求される精密度のより詳細な検討、3次元音像定位測定装置の構築および実験、教育効果に関する検討を行い、本研究のまとめを行う予定である。
|