研究の最終年度にあたる本年度は、高機能な聴覚ディスプレイの実現をめざして、数値計算手法の改良およびソフトウェアの作成等を行った。以下にその概要を記す。 ・ HRIR(頭部インパルス応答)を計算する際に必要なインパルス点音源の駆動方法について検討した結果、空間上の1格子点で音圧を駆動する場合、低域の強調が生じることを見出し、それを解消するためには駆動インパルス波形にあらかじめ帯域通過フィルタを施すことが有効であることを示した。 ・ 昨年度に検討した頭部モデルは、被験者毎に異なる頭部形状を、回転楕円体で単純化したことに加え、耳介の存在を無視したため、上下および前後方向の音像定位が不正確になるという問題があった。そこで、本年度は光学式3次元形状測定器(ミノルタ社製VIVID700)によって被験者の頭部形状を測定し、それを接合処理することにより、耳介形状を含んだ正確な頭部モデルの生成方法を検討し、約1mmピッチの空間分解能の頭部モデルを生成することを可能にした。 ・ 近年、電磁界問題の解析に広く用いられているFDTD法(有限差分時間領域法)に比べて、非直交・不等間隔空間格子を使用できるため散乱体形状に適合させやすいという特徴を有するFVTD法(有限体積時間領域法)の、音場計算への導入を検討した。具体的には、FVTD法を本研究の音場計算に導入する場合のメリットとデメリットを明らかにし、FVTDスキームのスカラー波動場への焼き直しを行った。 以上の結果および前年度の結果をまとめると、本研究では、3次元的に音像を定位させる聴覚ディスプレイの新しい構成方法を提案し、聴覚実験を通して検討を行った結果、計算機合成による空間音響の生成が充分可能であることを示した。
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