本研究は、ネットワークを利用した学習環境を実験的に構築し、そこでの授業デザインと科学者・生徒・教師の変容を分析考察し、そこからネットワークを利用した学習環境デザインの指針を提示することである。 1997年度より開始されたシステムの試行期間を経て、本研究では、都立明正高校の物理実験室に設置した4台のコンピュータを通して、生徒、教師、そしてアドバイザーとして学校外の若手科学者とネットワークを組み、参加者が自由に交流する環境を構築した。ネットワークの利用状況とその上の会議室は以下の通りである(「」が会議室名)。3年生の選択科目である「物理2」、「化学2」の授業の一貫として利用し、科学について議論した。また、クラブ活動である「総合科学部」、「生徒会」、「明正の先生」(担当教官以外の教師)も参加した。1998年6月、9月に科学者が高校を訪問し、交流の場を持った。 本研究のためのデータとして、学校における授業進行、ネットワーク上のメッセージ、ネットワークを利用する文脈や課題、教師や科学者への聞き取り調査分析の対象とし、以下の考察結果を得た。授業デザインでは、担当教師は科学の学びを「ネットワークによるコミュニケーションの拡張」とし、その中に本プロジェクト(科学者との交流)を位置付けた。生徒の発言パタンで顕著なものは、交信数が次第に増加するものであり、9月に実施した科学者の高校訪問を境にしている。1年半の交流を通して科学者は、生徒からの科学や技術の倫理的問題を含む様々な質問に対し、自分自身の科学的知識を問い直すことが起こった。生徒は、授業に関する質問をするだけでなく、興味を持っているアニメに出てくる技術などについての実現可能性などを話し合った。これらのことから、今まで物理室には興味を持っていなかった生徒が集まりはじめ、生徒同士の交流も起こった。教師もその交流の1メンバーとして、科学に関する議論を行うことにより生徒とともに明正高校の科学コミュニティを構築していった。 これらのことから、学校の科学の授業が学校外のコミュニティとの遭遇によって、新たな学びのコミュニティが構築されていくこと、その様な場としてネットワークが有効であることが明らかになった。通常学校の授業において教えられる科学は、科学者の日常行っている「真正な」活動とは異なる。この橋渡しの手段として、ネットワークの利用した教師と科学者の協力による授業デザインは、重要な役割を果たす。
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