本研究の目的は、聴覚障害を持つ学生を対象とした授業の中で生じる様々なコミュニケーションの障害を克服・支援するシステムを実現することである。 そこで第一に、実際の授業の中でどのような障害が生じているかを調べるために、学生29名に対してアンケート調査を行った。その結果、学生が求めていることは、「学生個人と教官との円滑なコミュニケーション」の他に、「他の学生と教官との会話」、および「他の学生同士の会話」を把握し、授業全体の流れを理解したいということであると分かった。また、そのような多対多のコミュニケーションの良し悪しは、教室の机などの設備の配置に大きく関連していることも分かった。 そこで第二に、学生、聴障の教官、健聴の教官それぞれの立場から、既存の教室の設備配置について比較評価してもらい、AHP(階層構造に基づく分析法)により分析した。その結果、それぞれの立場で多対多のコミュニケーションを重要視するものの、それぞれが最適と評価する設備配置はまちまちであり、全ての要件を満たす設備配置は存在しなかった。 そこで第三に、コミュニケーションの障害となる要因をなくすための支援システムを現在開発中である。本システムは、プレゼンテーションモジュールとネットワークモジュールで構成される。プレゼンテーションモジュールでは、液晶プロジェクターにより投影されるスクリーン上に、講義資料と全ての会話のやり取りを集中表示し、視線を逸らさずに授業の流れを把握できる。ネットワークモジュールでは、市販のネットワーク会議ソフトウェアをベースとし、聴覚障害学生のために有効に利用するとともに、聴覚障害者固有の問題に対処するためのソフトウェアを開発し、ネットワークを介してのコミュニケーションを支援する。
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