研究概要 |
経験の蓄積を実現する記憶システムの心理学的役割とそれに関与する神経・生理学的基盤に関して明らかにすることは,障害児の治療教育の基盤的知見となる。本研究の目的は,脳器質障害が想定されかつ発達的な問題を有し,特異的な記憶機能を示すことが多い自閉症児を対象とし,彼らの記憶システムの構成について検討することである。 本研究は,基本的には個別事例研究として進める。今年度は1年目であり,被験者として自閉症児5名を選定した。各児とも,本人あるいは両親及び関係者に対して研究主旨を説明したうえで了承を受け,出生後に外傷等による脳器質損傷を受けた履歴がなく,実験者の教示に対応できる程度の簡単な言語的コミニュケーションが可能であるという基準に合致した。但し,うち1名については,検査開始後にてんかんの初発がみられ,検査を中断した。 自閉症児に対しては,生育歴の聴取,脳波検査,聴覚情報処理の初期過程を検査するために聴性脳幹誘発反応を測定した。1名については筋緊張の亢進により脳波計測が困難なため検査を中断した。残り3名について,記憶更新過程を反映する電位である事象関連電位P3を指標とした検査を実施した。 また並行して,健常者を対象とした実験を行い,記憶機能を検査する上で敏感性の高い検査方法について検討を実施し,継続している。より安定した事象関連電位P3波形の出現を得るために刺激提示頻度と刺激反応様式を操作した実験方法について,現在検討中である。
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