本研究は、“10歳前後に発現する描画表現に対する意欲の低下傾向"いわゆる「9、10歳の節」に着目し、面接調査や発話思考法による描画実験などによって、そうした子どもの内的過程の外在化、要因の推定を行うことを目的とした。その結果次の知見が得られた。1)意欲度の低い児童は、自分の描画に対して教師や友人や親が発した感想や評価の言葉を具体的に記憶している。2)意欲度の低い児童は、人物画、特に顔を描くことに対して嫌悪感を抱いている。3)人物画の描画ストラテジーに関して、意欲度の低い児童は、想像画も観察画も同じ順番で描くという傾向が認められた。4)意欲度の低い児童には、観察画と想像画の類似、頭髪を克明に描く事例、横顔ばかりを描く事例、対象を小さく描く事例などが認められた。5)プロトコル・データ中の指示語・比較語と目、鼻等の部位の名詞の頻度を比較した結果、意欲度の高い児童の場合、想像画・観察画ともに指示語・比較語が優位であったが、意欲度の低い児童には、名詞優位で描く場合があった。 またこうした時期を迎えた子どもたちが、<描画(絵)=写生画>という認識を持っていることが随所に確認された。そして描画観について、教育する側と学習する側との間に相当なへだたりが存在することも読み取ることができた。
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