本研究は、生徒の論理的な思考と直観を育成するような教材の開発を目的とする。そのための一つの手段として、現在の高等学校数学にグラフ電卓を教具として導入し、グラフ電卓による視覚的なイメージや具体的な操作方法を通して、生徒の論理的な思考と直観を相互に育成する教材を開発することを試みた。以下、平成10年度に行なった研究概要を示す。 1. 授業の実施 本研究で開発した教材をもとに、金沢工業高等専門学校の学生を対象に授業を行なった.この教材は、微分、特に導関数の導入部分の発展例としてボールの鉛直投げ上げ運動をテーマに掲げている。問題解決の各段階において、論理的な思考と直観が相互に関わり合い、生徒の理解につながるよう、グラフ電卓を用いた実験・観察が学習の柱となるように工夫してある。また、実際に生徒が自ら実験を行ないデータ収集を行なうことから、3〜4人のグループで話し合いながら解決を見つけていく学習形態を取った。 2.授業分析(本研究の仮説検証・評価) 本研究で開発した教材の有効性を客観的に検証・評価するために、ビデオカメラで学習者の表情や行動を追跡し、テープレコーダーで共同学習者との討論の様子を録音することにより、学習者の活動・反応を観察した。そして、概念を形成する様子を分析した。結果、次の点が明確になった。 ○ 実験という具体的な操作活動によって、実験事象とモデル化した関数式との関連を直感的に考察しやすい。 ○ 検証活動を重視することにより、直観的に得られた仮説を裏付けること(理論的な思考活動)を促進する。 ○ グラフ電卓を用いた実験では、実験結果を即数値やグラフで表すことが出来るので、課題を解析・探究する意欲が 続しやすい。また、数値の変化からモデル化に適したグラフを連想したり、関数式から実験事象を逆に考察することが可能。 ○ グループ内での話し合いや討論といった活動は、内面的な思考過程を表現させる訓練になる。
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