今年度の第一の目的は、まず新たな複文接続形式を拾い出すという作業である。特に、従来研究の対象とされてきたものが書き言葉における用法であったことから、本研究は従来の書き言葉における分析に加えて、話し言葉における用法の違いを探ることに重点を置いた。そのために、まずシナリオおよび対談(ただし、これらは文字化されたものを使用した)を素材としたコーパスを作成し、その中から新たな形式や、あるいは既存の形式の新しい用法の分析を開始したところである。 この作業によって明らかになったことは、話し言葉の中には、従来の分析の枠にはまらない興味深い用法が含まれていることがわかったことである。特に諸形式の終助詞的な用法や、メタ・リンガルな用法が今後注目されるであろう。この点に関しては「話し言葉における接続助詞トの用法」(manuscript)としてまとめられた。 第二の目的は、複文全体の枠組みに関わる事項の研究であり、この点をテーマとした研究会に参加・発表を行った(97年8月、12月、および98年3月)。 第三の目的は、具体的な諸形式の記述であるが、本年度は条件節の用法に取り組んだ。本年度の研究の一部は、「非仮定的な事態を接続するト・タラの意味・用法」(東京大学留学生センター紀要8号)にまとめられている。また、原因・理由節にも範囲を広げ、「原因・理由を表す接続助詞ダケニの意味・用法」(manuscript)を用意している。条件節と原因・理由節は、複文の中枢的なタイプであり、今後も研究を深める必要がある分野である。 本年度は以上の研究成果に加え、これらの基盤となる基本的な言語資料の収集・コーパス化が大きな作業であった。本年度作成した資料を用い、本年度はより大きな成果を具体化していく予定である。
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