平均0の定常過程の構造は2次構造までであればスペクトルで規定され、したがって種々の統計的推測問題への1つのアプローチは「スペクトルによる周波領域解析」である。本研究者は以前の研究成果として3つの特殊な距離を導入してある推定・検定問題、判別・クラスター分析に関する論文を発表しているが、固有値問題として捉えることにより1次元の場合のスペクトル擬似距離の拡張としての擬似距離のあるクラスを考察するに至った。このような擬似距離のクラスは多変量解析の分散共分散構造モデルの統計的推測問題の定式化と類似しており、ある意味ではその周波領域バ-ジョンと考えられ、時系列解析における種々の応用が今後期待できる。実際、上記にあるように本研究者はすでにスペクトルの母数推定問題、判別・クラスター分析の成果を出しているが、それらは固有値に基づく擬似距離のクラスに対しても成立することが分かった。擬似距離のクラスを考えている理由は「擬似距離がある条件を満たしていればすべて同じ1次の漸近的結果に至る」という事実のためであり、距離の選択による高次理論への差異を明確にしたいというねらいがある。検定問題ではしばしば尤度比検定統計量が使われ、その分布の漸近展開などの議論がされるが、次年度ではここでの擬似距離を基礎にした統計量と尤度比検定統計量を比較することから始め、また、分散共分散構造モデルですでに得られている結果を文献から調べて研究し、それらをスペクトル解析へ取り入れる予定である。
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