研究概要 |
本研究課題では,多変量解析モデルのパラメータ推定に関して,決定論的観点からの推定理論の新たな展開を主に行った。 (1)縮小推定による改良のロバストネス。多変量線形回帰モデルにおける回帰係数行列の推定問題については,通常の最小2乗推定量がスタイン型縮小推定量によって改良されることが、誤差項が正規分布に従うという従来の設定のもとで知られてきたが,この改良結果が実は分布の正規性の制約を外しても成立するという改良のロバストネスを示した。多変量モデルは共分散行列が複雑に入っているため正規性という制約は緩められないと予想されたが、多変量正規分布やウィッシャート分布での部分積分の公式がより一般的な楕円分布においても成立することを示すことにより,改良のロバストネスという結果を得た。この公式を用いることにより,損失関数やモデルの拡張を可能にするとともに,共分散行列の推定に関する一連の決定論的結果について改良のロバストネスを示した。分散の推定量を平均の情報を用いて改良する問題についても同様の枠組みで議論したが,その改良のロバストネスは,広い分布族においては主張できず正規分布に近い分布のクラスにおいて成立することがわかった。 (2)2段階一般化最小2乗推定量の非許容性。2つの線形回帰モデルの共通な回帰係数の推定問題において,誤差分散の推定値によって重みを付けた一般化最小2乗推定量が最も自然な推定量として用いられ,2段階一般化最小2乗推定量(2GLSE)と呼ばれる。片方の回帰モデルのデータが少ないときにはその誤差分散の推定値が不安定になるため2GLSEを修正する必要がある。しかしこの推定量の許容性は長い間解決されないまま残されてきたが,本研究において,回帰係数が3次元以上のときに解決された。具体的には,誤差分散に対して打ち切り型推定量を用いた不偏推定量を構成し,2GLSEの改良を証明し,その改良の程度を数値的に明らかにすることができた。 その他,縮小が必要が様々な推定問題を調査・整理し,理論的側面から縮小方法について検討した。
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