オペレーティング・システムにおける世界とは、独立した名前空間を持つプロセスの実行環境である。多重世界モデル(並列世界モデル)とは、1つのシステムの中で複数の実行環境を提供することである。世界という抽象は、楽観的処理(投機的処理)を支援するために考案されたものである。本研究では、世界という考え方利用して、協調作業や版管理を支援する。また、単一のワークステーションに加え、複数のワークステーション、あるいは、切断されうる可搬型計算機がネットワークで結合された分散環境において、世界の実現方法を探究する。 本研究システムは、世界サーバ、ファイル・サーバ、プロセス・サーバといった要素に分割して開発を行う。本年度は、プロセス・サーバを実現し、遠隔手続き呼出し(RPC)を通じて利用可能にした。ネットワークで結合された環境で、全てのサーバとそれらを利用するクライアントを作成し、性能を測定した。この結果、本システムにおいて最も重要な操作である世界の融合操作を、内部に含まれているファイルやプロセスの数とは独立に定数時間で完了させることが可能であることを確認した。 既存のシステムにおいて多重世界モデルを利用可能するために、本システムのエミュレータをUnix System Vが提供するシステム・コールのトレース機能を用いて実現した。このエミュレータでは、既存のシステムのアプリケーションをそのまま利用することかできる。さらに、利用者が明示的に世界を操作すること、および、世界の内容を問い合わせることが可能である。
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