本研究では、3つの課題に関して研究を行った。 最初に、昨年度までの研究において提案した優先度継承スピンロックアルゴリズムの評価を行い、その有効性を検証した。その結果、優先度継承スピンロックは、上限のない優先度現象を防ぐことができる利点が確かめられた一方で、オーバヘッドが大きいという問題もあり、平均性能が重視されるシステムには不適切であることが明らかになった。 次に、全く新しいプロセッサ間の同期手法であるSPEPP同期(SPEPPはSpinning Processor Executes for Preempted Processorsの略である)を提案し、その性質の検証と評価を行った。SPEPP同期を用いることで、機能分散マルチプロセッサ上のリアルタイムカーネルをスケーラビリティを保って実装する際に、割込み処理に伴うプリエンプションコストをオーバヘッドを除いてゼロにすることができ、従来の中断可能なスピンロックを用いた方法に比べて良い性質を持つと予想される。本研究では、SPEPP同期を用いたリアルタイムカーネルを実装し、中断可能なスピンロックを用いたものと性能比較を行い、その予想が正しいことを確かめた。SPEPP同期のロックがネストしたケースへの適用は、2年めの課題として残った。 3つめとして、リアルタイムカーネルのスケラ-ビリティを保ったまま、プロセッサ間でマイグレート可能なグローバルタスクを導入する方法に関して検討を行った。その結果、グローバルタスク実装のアルゴリズムが明らかとなり、実装のメドはたったが、実際の実装作業と性能評価についても2年めの課題として残った。 なお、3つの研究課題のそれぞれに対して、1本づつの論文発表を行った。
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