研究概要 |
本研究の目的は,ゴールに依存した抽象化を用いた類推の定式化,およびその実装システムの構築である. ゴールに依存した抽象化アルゴリズム(GDA)は,ゴールに依存した動的類似性を検出するアルゴリズムである.これまでの研究により,GDAを用いた類推の大枠は概ねまとまりつつあるが,その有効性を示すには,具体的な利用法を含めたモデルの提案が重要であると考えられる.そこで本年度は,GDAを利用した法的論争のモデル化を試みた. 法的論争では,相手の論証の弱点を指摘することにより反論を行うが,ここでは相手の法令解釈の不備,特に『法令の類推解釈』の不備を法的安定性の観点から攻撃する. 法令の類推解釈は、法令R中の概念aと事例C中の概念bの間に類似性を見出すことにより行われ,類推解釈の結果,法令Rがその事例にも適用される.そこで,まず,相手の類推解釈の基礎となった類似性から,相手が注目していたであろう要因を推論し,それを目的(ゴール)と捉えることにより,GDAを用いて相手の類似性を包含する類似性を検出する.これは,相手が『aとbは似ている』と考えたのと同様な理由で『aとcは似ている』と考えられる別の概念cを見つけ出すことに相当する.このことから,相手の類推解釈を認めるならば,概念cを含む事例C′に対しても,同様に法令Rは類推適用されるべきと考えることができよう.しかし,過去の判例により,C′に対してはRが類推適用されていない事がわかれば,相手の法令解釈は一貫していないと言え,このことは法的安定性の観点から望ましくない.なぜなら,こうした解釈の不一貫性は,類似事例に対して異なる結論を導く可能性があることを示唆しているからである.今年度は,こうした点を相手の論証の弱点と捉えて反論する論争モデルを,GDAによる類推を中核として定式化した. 初年度である平成9年度は主に定式化に重点を置き研究を進めたが,平成10年度は,今年度提案したモデルを計算機上に実装し,実験によりGDAによる類推の有効性を示したいと考えている.
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