人間の演奏にコンピュータがテンポを併わせて合奏を行なう「伴奏システム」に関する研究を行なっているが、その演奏出力の手段としては電子楽器が用いられる。しかし、電子楽器は信号が到着してから実際に音が鳴るまで遅延時間がある。そこでまず電子楽器として電子ピアノの発音遅延時間をサンプリングオシロスコープにより測定した。一音だけの発音の場合、音の高さによって異なるが、5ミリ秒から15ミリ秒程度の遅延が確認された。これは一音だけ鳴らすという電子楽器にとっては比較的遅延の短い場合で、通常の遅延はもっと大きくなる。この遅延を正確に補償しなければ、人間の演奏と調和した伴奏を行なうことは不可能である。また遅延時間は状況により変化し、一定ではないため、その予測は困難である。そこで伴奏システムは自分自身が出力した音をフィードバックし、遅延を補償するという新しい伴奏システムの手法を提案した。そのプロトタイプシステムとしてIBM社のパーソナルコンピュータにTI社のデジタルシグナルプロセッサTMS320CC44が搭載されたボードおよび2チャンネルの同時AD変換を行なうボードを挿入してシステムを試作した。独奏者の演奏はマイクからAD変換ボードの片チャンネルに入力される。そのピッチ抽出は1996年度の科研費による研究で開発したDSPによる複数ディジタルバンドパスフィルタによるゼロクロスピッチ抽出法を用いた。また、コンピュータが演奏する伴奏楽器は電子ピアノとし、システムは自分自身の演奏をMIDI信号として、電子ピアノに送出する。電子ピアノから出力された音はAD変換ボードのもう片方のチャンネルに入力され、システムへフィードバックされる。そのフィードバックされた音響信号と自分自身が演奏した楽譜情報とのマッチングを行ない、実際に音が鳴った正確な時刻を認識する。
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