研究概要 |
本研究では,実際の科学者や研究・開発(以下,R&Dと略記)チームのメンバーに対してインタビューを実施し,その結果,現実のR&Dにおいていかなる協同(collaboration)が有効なのか,科学者個人の思考にあってはどのような推論形態が頻繁に利用されているのか,を分析した. R&Dチームの協同に関してはまず,非常に長期に及ぶ製品開発プロセスにおけるR&Dチームの協調的活動を,ミクロかつ時系列的に分析した.その結果,チーム内の個人間の協同,異なるR&Dチーム間の協同,異なる部門間の協同のすべてが観察され,それらのどれもが当該R&Dプロジェクトにとって重要であることがわかった.かつ,このR&Dによってもたらされた技術革新は,漸時的に生じた,協同を含む認知的な活動の集積の結果であることがわかった.さらに,短期的になされた2人の間のサジェスチョンの事例をインタビューと現場観察とによって収集し,サジェスチョンによって与えられる知識のタイプと2人の間のポジションの差という2つの基準により,4つのタイプへと分類した. 科学者個人の思考に関しては,(以前とり実施していたものも加えて)合計22件のインタビューを実施した.そして,それら思考を支えたミクロな認知活動=推論形態が何であるかを分析した.その結果,全37の推論の約半数がいわゆる類推(analogy)によることをつきとめた.さらに全19の類推の事例を,類似性の種類と写像される知識の探索方法の相違により,6つのクラスへと分類することができた. 本研究により,現実のR&D,すなわち科学的実践,を支える重要な要素として,いくつかのタイプの協同と個人による類推とを同定し,それらを科学者の認知活動というミクロなレベルで詳細に分析することができたと言えよう.
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