本研究では計算機による発見機構の実現を目標とし、幾何構造に基づく発見システムDIGESTを構築し動作させた。複雑な対象を観察して知識を得るためには、細部について観察するよりも、その対象を構成する構造問の関係に注目する必要がある。対象における構造を把握することで、抽象度の高い一般性のある定理や法則を発見することができる。多くの辺や角から構成される複雑な図形から定理や法則を発見するにあたり、DIGESTは平面幾何における最も基本的な構造である三角形に注目する。三角形の隣接・包含関係を基に面積の関係を表す式を獲得し、その式を変形していく。DIGESTはチェバの定理やメネラウスの定理などを再発見するだけでなく、三角形の重心についての定理など、一般性のある定理を数多く発見している。また、多くの発見システムが問題解決の手法を用いていることから、問題解決過程における表現手法の研究として、図を用いて推論を行なうシステムの構築も行なった。このシステムは算数の文章題を解く際、問題を図示することによって、陽に示されていなかった条件や制約を図から獲得して問題解決を行なっている。以上のように、今年度は発見における図を用いた表現やデ一夕獲得の手法についての研究を行なった。この研究は、発見という人間の高度な知的活動を解明する上で興味深いだけでなく、計算機上での図形の表現やそれを用いた推論の手法についての有用な知見をもたらすものであると言える。
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