人間の複雑な問題解決における協調的な作業について、認知科学的手法で研究を行ってきた。まず、四人将棋を例に挙げ、協調性場面において、人間がどのような情報処理を行なっているのかを調査した。その結果、同程度のレベルのプレーヤー間でもっとも良く意思の疎通が図れることが確認された。このことからプレーヤーの能力が近いことがパートナーの行動を予測する上で重要でありその結果暗黙のコミュニケーションの助けになっていることが指唆された。 さらに深い考察を得るために、将棋の感想戦を題材にして、協調学習過程におけるコミュニケーションに関する調査を行った。感想戦においても、同レベルの学習者の際にもっとも良く会話が弾み、両者が互いに意見の提案と検討を行い円滑なコミュニケーションが観察された。レベルに差があると、強い方が一方的に提案と検討を行い、弱い方は、その意味を完全に理解しないまま結果だけを丸暗記するといった行動が見られた。同レベルのプレーヤー間では候補とする指し手(見え)が非常に似通っており、その微妙な差異を検討することが出来るので、会話が弾むことが分かった。レベルに差があると、候補となる指し手に大きな差が現れてしまい、会話がかみ合わなくなるという状況が見られた。この現象を「対局者スクリプト」という概念で説明を試みた。 学習者は「見え」と「読み」を生成する「対局者スクリプト」という問題解決の枠組みを先に学習し、「見え」を洗練させるべく対局後の検討(感想戦)を行う。しかし、円滑に検討を行うためには、「見え」が近いパートナーと行わないと、非言語的情報が決定的となるためにコミュニケーションがうまくいかないのである。この「見え」こそが、暗黙のコミュニケーションの支えとなる。
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