研究概要 |
本研究では,人間同士の音声による会話を収録したデータを用いて,言い淀み,言い直しなどの非流暢的現象や話者交替,相づちなどの会話相互作用について分析し,人間の音声言語行動のモデル化と対話システムへの応用に関する研究を行なう.本年度の研究項目は以下の4点である. 1.言い直しと言語構造との関係の分析 ATR経路課題コーパスに対して,品詞付与と言い直しのマ-キングを行ない,言い直しがどのような言語構造のもとで生じやすいかを統計的に分析した.その結果,言い直しは概ね統語単位の境界で生じるが,機能語の言い換えなどに例外が見られることがわかった. 2.話者交替と韻律的・統語的特徴との関係の分析 千葉大学地図課題コーパスを用いて,話者交替が生じる個所の韻律的・統語的特徴について統計的に分析した.その結果,上昇調や下降調,用言終止形や終助詞といった文末位置で話者の交替が生じやすく,上昇下降調や連体詞・副詞といった文中位置では交替が生じにくいことがわかった. 3.同時開始発話の分析 2の延長として,従来円滑な話者交替からの逸脱として見なされていた,二人の話者が同時に発話を開始する現象について,同様の手法で分析した.その結果,文末,文中の区別が同時開始発話の生じやすさとも相関することが明らかになり,同時開始発話の規則性をとらえることができた. 4.韻律情報に基づく相づち個所の推定 1-3では対象が課題指向対話に限定されていたので新たに自由会話を収録し,そのデータを用いて,相づちが生じる個所の韻律特徴について機械学習手法を用いてモデル化した.その結果,相づちは上昇下降調に呼応して打たれやすく,平坦なピッチで終わる短い発話に対しては打たれにくいことが分かった. これらはいずれも,人間が会話する際の言語産出や情報のやり取りの仕組みを探り,それに適応した柔軟な音声対話システムを開発するうえで基礎となる重要な知見である.
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