研究概要 |
日本語文では,二つの名詞句を「の」で結合した名詞句「NPのNP」が頻繁に現れる.従来構文解析に用いられてきた統語範疇である名詞句を細分した文法による「NPのNP」の統語構造から,統語規則に対応した翻訳規則により意味構造を求める手法をすでに提案している.この手法では,個体を指示する名詞句(T)と関係を表す名詞句(RN)が結合した「TのRN」の形態の名詞句,例えば「太郎の妻」では,その意味構造は,“妻(x,y)∧太郎(y)"(“妻(x,y)"はxがyの妻であることを示す)となり,RN自体が二つの名詞句の間の関係を表す.一方,Tと一般の名詞句(CN)が結合した「TのRN」の形態の名詞句,例えば,「工事のダイナマイト」では,その意味構造は,“工事(y)∧ダイナマイト(x)∧使用する(x,y)"(“使用する(x,y)"はxをyで使用することを示す)となり,言語表現中に現れない関係(この例では『…で使用する』)を補って解釈する必要がある.したがって,「NPのNP」の意味構造の推定には, (1)名詞句のCNとRNへの分類 (2)「TのRN」の形態の名詞句に対して,二つの名詞句の間の関係を表す述語(関係述語と呼ぶ)の推定 が必要となる. (1)に関しては,「NのRN」のNの位置に来る名詞の意味範疇のばらつきが,「NのCN」のNの位置に来る名詞の意味範疇のばらつきよりも小さい傾向にあることが予想され,実際にこのばらつきをエントロピーで定量化した分類システムを作成し,約80%の正解率を得た.(2)に関しては,「N_1のN_2」が「TのCN」の形態の場合,その関係述語はN_1またはN_2が係り易い動詞を用いた関係であること,N_1,N_2が関係述語の動詞のどの格を埋め易いかに傾向があることから統計的手法による関係述語の推定システムを作成し,小規模な実験を行なったところ,良好な結果を得た.
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