研究概要 |
この研究は,人間の視覚的物体認識プロセスの中で行われる情報処理に多大な影響を持つ視覚的注意の働きを調べてモデル化する試みである.工場のような作業現場や日常生活場面で,注視点の分布および注視点の移動を測定することによって,物体の認識に関わる注視点移動のストラテジーと空間の複雑度との関係をモデル化し,安全な作業環境・生活環境の設計指針に役立てようとするものである.特に,最近の社会情勢としては,65歳までの定年延長に伴って,これまでとはちがった,作業者の高齢化に対応した作業場改善が強く求められている. 平成9年度は注視点配分の測定実験の準備を行った.多くの物体が含まれる3次元シーンの例として,作業場および標識類のある町中の場面の写真を収集した.抽象化された3次元空間のモデルをCGで作成する作業をほぼ完了した. 一方,注視点測定実験の被験者として若年者と高齢者を設定するのに先立ち,高齢者の視覚認識と対象の色についての関係を調べる実験を行った.加齢に伴う水晶体の黄変化による色の誤認状況と日常生活の中で起こる視覚的困難についての実験および若年者によるシミュレーション実験を行い,単に色の見え方が異なるというだけでなく,色による物の区別が困難になること,奥行き感・距離感が減少すること,ガラスや液体のような透明・不定形の物が認識困難になること,点滅していない信号に視覚的注意を向けることが困難なこと,などがわかった.この結果は雑誌論文として発表した.また,被験者が誤認した色のデータをもとに,高齢者の色知覚に関するCGモデルを作成した.国際会議で発表予定である. 今後,アイマーク・レコーダーを使って実際の観察者の注視点を測定し,得られた視点の移動データから刺激と注意配分・注意移動の関係を解析する.
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