研究概要 |
本研究では,非同期分散共調システムにおいて予防保全スケジュールを生成するための手法を開発することを試みた.先に述べたシステムの同期的ブロック単位を,新たにペトリネットの時間待ち行列プレース(timed queueing place)とみなすことによって,連続時間マルコフ連鎖に変換する.このマルコフ連鎖の状態集合は元のペトリネットの状態の部分集合となるので,変換されたマルコフ連鎖の遷移確率行列は再生点間におけるペトリネットの進化をすべて調べることによって特定化される.この段階で状態空間爆発の問題を避けるために,マルコフ連鎖に拡散近似を適用した.このような近似手続きの利点として,(i)定常アベイラビリティなど比較的長い時間スパンを想定した信頼性評価尺度を計算するためには,マルコフ連鎖の極限における振る舞いを特徴づける連続状態確率過程を用いて近似することが数学的に好ましい,(ii)予防保全スケジュールを生成する問題は連続型確率制御問題に帰着され,保全スケジュール生成のためのアルゴリズムを比較的容易に求めることが可能となる,(iii)中心極限定理に代表されるように,ブラウン運動に関する強力な性質が使えるため,最終的に導出される非同期分散システムのペトリネット表現は,従来の手法によるものよりも数十倍縮小されたサイズで実現できる可能性がある,などが挙げられる.本研究では,分散データベースシステムにおける障害回復にこの新しい手法を適用し,解の精度ならびに計算効率性の観点から従来法との比較を行った.さらに,本手法に基づいたネット指向ソフトウェアの設計およびリアルタイム制御用プログラムを実現するために,提案された予防保全スケジュールの生成アルゴリズムを確率アルゴリズムの観点から評価し,汎用性の高いシミュレータの開発を目指す.
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