従来の降雨時における斜面の崩壊・未崩壊の判別基準に関する研究の多くは、建設省による土石流の警戒・避難基準雨量設定に代表される崩壊発生の誘因である降雨に関して多く行われている。しかし、これらは降雨観測域に準じた流域単位、地域単位の基準であり一単位内のどの斜面で崩壊が発生するかまでは特定することができない。一方、斜面要因については多変量解析やファジイ理論等の最適化手法を用いた土石流発生危険度評価および崩壊規模の予測も行われているが、斜面要因のみの分析では斜面の崩壊可能性を十分に評価できていないのが現状である。また、個々の斜面について要因と誘因とを組み合わせた物理モデルによる評価手法の研究が行われているが、現実に全国的にこのモデルを適用するには大変な労力を必要とし実用的とは言い難い。 したがって、本研究では解析手法としてパターン認識に優れ、多くのデータを同時に取り扱う事が可能なAL(人工生命)技術の1つであるニューラルネットワーク(NN)を用い、個々の切土のり面の地形・地質・土工等の斜面要因と降雨要因を組み合せた崩壊・未崩壊の判別システムの構築を行った。その結果、過去の崩壊発生降雨については80%以上、未崩壊であった降雨では90%以上の高い正解率で崩壊・未崩壊の判別が可能であることが分かった。また、この判別システムでは、個々の切土のり面に対してシステムから出力される0.0〜1.0の値を持つ崩壊確信度(V)の大きさにより崩壊・未崩壊の判別が可能である(Vが0.5以上で崩壊を示す)。 今後、この判別システムの実際の防災管理への適用方法及び、急傾斜地などの自然斜面へのアプローチの方法について研究を行う予定である。
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