平成9年度の科学研究費補助金(奨励研究(A)、課題番号:09780457)によって以下3つの研究を行った。 1.Fe-Cr-Ni合金における転位組織の発達に及ぼす中性子スペクトルの効果 原子炉による材料の照射実験は核分裂炉のみならず核融合炉材料の開発に不可欠である。核融合炉と核分裂炉の一つ違いは中性子のエネルギースペクトルである。ここで、Fe-Cr-Ni合金について核融合中性子と核分裂中性子照射の相関を求めた。照射は日本原子力研究所の材料実験炉JMTRと京都大学研究用原子炉KURと単色14MeV核融合中性子源により行ったものである。核分裂中性子及び核融合中性子照射によって形成された欠陥の密度は照射量にほぼ比例して増加した。いずれにおいても自由格子間原子の会合過程によって格子間原子型転位ループが形成されると仮定した計算結果より高いことがわかった。これらの二次欠陥は自由点欠陥が長距離に拡散し会合することによって核形成されたものではなく、カスケード衝突領域内の一次点欠陥がカスケード衝突の冷却期に再配列を起こし発生したいわゆるカスケード二次欠陥であると考えられる。もしカスケードから直接に転位ループを形成するしきい値が存在し、転位ループ形成の効率はカスケードのエネルギーに比例すると仮定すれば、核分裂中性子と核融合中性子照射を同時に満たすカスケードしきいは20keVとなる。また、このカスケードによる転位ループ形成の効率は0.4%である。 2.Fe-Cr-Ni合金及び他の金属・合金の損傷組織の発達に及ぼす損傷速度の影響 照射速度による損傷組織への影響を調べるため、KURで損傷速度が約2桁違う中性子照射を行った。陽電子寿命測定と電子顕微鏡の観察結果は損傷組織の発達は損傷速度に強く依存することを明らかにした。 3.Fe-Cr-Ni合金の損傷組織に及ぼす照射温度変動効果のシミュレーション 核融合環境下での材料特性変化を正しく評価するために、JMTRで行った温度変動の実験結果に対して、計算機シミュレーションを行った。計算結果は定性的に実験結果の説明ができ、温度変動下での欠陥反応の素過程を明らかにした。
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