数MeVオーダーのイオンビームを照射したCR-39検出器中に形成される損傷の分析に、赤外分光法を中心とする光学的手法を適用した。照射及び計測条件のうち真空中保持のもたらす効果に着目し、それらとエッチング特性との関係についても検討した。イオンのみならず、γ線を照射した試料についても同様の分析を行った。いずれ場合にもフルエンスや線量の増加とともに試料は著しく黄変する。紫外-可視分光によると、未照射試料には、220nm付近の強い吸収と260nm付近の弱い吸収があるが、高いフルエンスになると、水素やヘリウムでは約400nm、炭素ではおよそ500nm付近のより長波長側でも強い吸収が見られる。γ線では数MGyの高線量照射後でも300nmを以上には吸収帯は広がらず、顕著な線質依存性が確認された。260nm付近の吸収のフルエンス依存性より、水素イオン、ヘリウムイオン、炭素イオンがつくる潜在飛跡の径方向広がりは、それぞれ、1.0nm、1.7nm、3.0nm程度であると評価された。これらの値及びLET依存性は重イオンについての研究報告が示す傾向とほぼ一致している。γ線照射の場合にも真空中照射では吸収が強くなったが、同時にエッチング速度は小さくなっており、260nm付近の吸収とエッチングに関連する損傷とは直接の関連は無いと見られる。ただし長波長側での吸収拡大(黄変)とエッチング速度の増大には明瞭な関連がある。数MGy以上の高い線量までγ線照射した試料中には、赤外分光により、未照射試料には存在しないOH基に由来する吸収(3460/cm)が観察されたが、真空中で照射した試料にはこれは確認されなかった。大気中照射では酸素の存在の下で高い収率で分子鎖が切断されているが、真空中ではもっぱら水素の放出によって不飽和結合、あるいは共役結合が増加し、その結果黄変するものと見られる。
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