係留気球・熱気球による盆地内部の気温・湿度・二酸化窒素濃度の鉛直分布の観測・サーモトレーサーによる斜面温度の観測を行い、季節を問わず盆地底から30〜50m上空に最高濃度(約40ppb)が形成されること、その直下で接地逆転層特有の気温勾配が見られること、二段目の逆転層の出現高度は盆地底から250m付近にあり、それまでは気温はゆるやかに増加し、湿度は漸減傾向になるが、その上空は自由大気としての気温・湿度分布であること、2つの逆転層の間の二酸化窒素濃度は高度とともに減少していることなどの基本的な構造がわかった。 盆地内で枯死アカマツの分布図を作成した結果、盆地底からの比高30〜100m付近に枯死域が集中し、標高500m付近の尾根沿いでは枯死率は25%程度なのに対し、標高310〜380mの枯死域は90%を上回っていた。健全域の林分は林冠層のアカマツ(樹高15m)の下に広葉樹群(樹高8m以下)と林床付近の陰樹(樹高1m以下)で構成されていたが、枯死域は陰樹の個体数の極端な増加(80〜120個体/25m^2)と樹高の伸長(2〜3m)によって特徴づけられた。その差は超広角レンズによる天空率からは検出されなかったが、林分構造は大きく変化していた。 同一斜面の健全域と枯死域の双方のアカマツの年輪サンプルを採取し、そのクロノロジーを比較した結果、枯死現象が1980〜85年頃に起こっていることがわかった。また、試験的な観測から、枯死個体は樹幹の表面温度の日変化が大きいこと、腐食の進んでいる個体の辺材部の幹内水分は晴天・雨天の変化に左右されていることなどの傾向をつかんだ。 これらの事実だけから大気環境・大気汚染と森林衰退を直接結び付けることはできないが、閉鎖地形におけるアカマツの衰退を盆地特有の気候現象が助長していると考えられる。
|