森林生態系の酸性降下物に対する反応は窒素の飽和状態によって異なる。窒素飽和の状態では、硝酸イオンと共にカルシウムイオン、マグネシウムイオンなどの塩基が流亡し、土壌酸性化が促進され、植物の生育に悪影響をおよぼす。本研究は、スギ林地における酸性降下物の影響を、窒素化合物の動態に着目し、モニタリングを中心とした環境動態に関する研究である。 試験地におけるアンモニウムイオンの7月から12月における降下量は昨年度の2倍以上に増加した。平成10年1月までの一年間の降下量は1kmolcha^<-1>を超え、平成5年度から7年度にかけて環境庁が実施した調査結果に比べて著しく多かった。硝酸イオンと合わせると20kgha:1の窒素が大気降下物によって森林に供給されていることが明かとなった。これは、窒素飽和起こる基準とされる10kgha^<-1>を大きく超えていた。 乾性沈着や葉からの溶出の影響により、林内雨中のイオン濃度が増加するのが一般的である。しかし、本試験地における林内雨中のアンモニウムイオン濃度は、林外雨に比べて低くなっていた。これは、スギ樹冠においてアンモニウムイオンが吸収されたためと考えられる。窒素が不足している森林生態系においても同様の結果が報告されており、本試験地において大気降下物中の無機窒素化合物はスギの栄養源として寄与していることが示唆された。森林土壌に供給されたアンモニウムイオンは硝化作用により硝酸イオンヘと変化する。土壌溶液中で多かった硝酸イオンも、渓流水中においては低く、窒素飽和の兆候は認められなかった。
|