森林生態系の酸性沈着に対する反応は窒素の飽和状態によって異なる。窒素飽和の状態では、硝酸イオンと共にカルシウムイオン、マグネシウムイオンなどの塩基が流亡し、土壌酸性化が促進され、植物の生育に悪影響をおよぼす。本研究は、スギ林地における酸性沈着の影響を、窒素化合物の動態に着目し、モニタリングを中心とした環境動態に関する研究である。 試験地におけるアンモニウムイオンの一年間の降下量は平成9年度1.05kmolc ha^<-1>であったが、平成10年度は0.75kmolcha^<-1>であった。しかし、硝酸イオンと合わせると15kg ha^<-1>の窒素が大気降下物によって森林に供給されていることが明かとなった。これは、窒素飽和起こる基準とされる10kg ha^<-1>を大きく超えていた。 本試験地における林内雨中のアンモニウムイオン濃度は、林外雨に比べて低くなっており、スギ樹冠においてアンモニウムイオンが吸収されたと考えられる。また、土壌溶液中ではアンモニウムイオンは検出されず、硝酸イオンが著しく増加していた。しかし、深さが増すにつれ硝酸イオン濃度も減少し、植物根による窒素の吸収が示唆された。このことから、窒素飽和の兆候は見られず、むしろ大気由来の窒素がスギの栄養源として寄与していると考えられる。さらに、試験地土壌は、カルシウムなどの交換性塩基に富んでおり、塩基飽和度が高いことから、窒素飽和に伴う土壌酸性化の影響が顕在化しにくいと考えられる。窒素飽和のメカニズムを明らかするためには、今後、植物体の分析、微量必須元素の動態なども含めて、モニタリングを継続していくことが重要である。
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