本年度は特に変異supF遺伝子を確実に選択可能な変異選択システムの確立とトランスジェニックマウス系の予備実験として、supFをゲノムにもつ哺乳類細胞変異スペクトル解析系の樹立を目的とした。 成果1)従来の変異標的遺伝子の選択法に存在していた「偽変異体を選択する」という致命的な欠点を改善し、確実に変異体のみが選択できる変異supF選択用の大腸菌KS40/pOF105の作成に成功した。この大腸菌は、染色体に抗生物質ナリジキシン酸(Nal)とストレプトマイシン(Sm)に抵抗性を示す変異遺伝子gyrA96とrpsLを、plasmidには、野生型のgyrAとrpsLにsite-direct mutagenesisによりamber変異を起こさせたgyrAam、rpsLamをもつ。この大腸菌にsupF(+)を入れると、plasmid上のamber変異がサプレスされ、野生型の形質、Nal、Sm感受性を示したが、約10^<-7>の頻度で生じたNal、Sm抵抗性コロニーのsupFをシークエンスした結果、すべてのNal、Sm抵抗性コロニーのsupFに確実に変異が観察できた。このことは、本研究で開発したこの大腸菌を用いた選択法が、効率よく確実に変異supFのみを選択できる有効な方法であることを示すものである。 成果2)この方法を用いた実験例として、supFを含むplasmidを活性酸素の消去酵素の一つsuper oxide dismutase (SOD)と鉄の取り込み調節タンパク質欠損大腸菌から回収し、supFに生じる自然突然変異スペクトルを検討し、活性酸素による代表的なDNA損傷である8-oxoGに由来すると見られる、GC>>TA、AT>>OGが有意に増加することを確認した(布柴ら、印刷中)。これは、これまでin vitroで示されてきたfenton反応によるOH・の生成が、in vivoでも起こる可能性をはじめて示したものである。 成果3) supF(+)をマーカーとしてのneo遺伝子とともに挿入されたλファージZAPII/supFneoを作成し、そのDNAをマウス乳がん細胞由来のFM3Aに導入し、哺乳類細胞変異スペクトル解析系の構築を試みた。ネオマイシン抵抗性を指標に、トランスフェクションされた細胞5株について、PCR法とサザン法により、マウスゲノム中に取り込まれたλDNAおよびsupFのコピー数を推定したところ、突然変異解析系として用いるには、不十分なコピー数であると判明した。現在さらに高コピー数のsupFを持つ細胞の分離を行っている。
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