研究概要 |
パプアニューギニア低地のギデラ族を対象として構築済みであった人口と環境の相互作用を含む数理モデルを一般化するにあたっては,2つの問題点があった。第一に,ギデラ族においては鉱山開発による水質汚濁と森林伐採によるマラリア罹患率上昇の2点に着目して開発の健康影響を評価したが,これらの問題はギデラ族に特異的で,そのままでは他の地域・集団に適用できない点,第二に,ギデラ族の人口は約2,000人であり,マイクロシミュレーションもその規模では実施可能であったが,人口規模を大きくすると指数的にシミュレーション所要時間が増加するという点である。平成9年度の成果としては,これらの問題点を基本的に解決したことがあげられる。つまり,東京湾の木更津周辺と館山周辺の2地域で沿岸漁業を営む人々の居住環境の調査によって,時系列変化の代りに地域間比較で開発による環境影響・健康影響を評価することができ,それを数理モデル化することができた(未発表)。また,マイクロシミュレーションプログラムの改良及びコンピュータのグレードアップによって,人口規模が昨年度の10倍である2万人まで,実用的な速度でのシミュレーションが可能になった。この改良を通じて人口再生産の指標の数理的評価を行うことができ、日本人口学会の学会誌「人口学研究」に発表した。 木更津と館山船形の調査では,住民の健康調査を行う前段階として環境調査を行い,海水及び飲料水の水質について調査した。これらの水サンプルは冷凍保存してあり,今後さらに分析項目を追加する予定である。残る問題は健康影響を評価する指標の特定であり,水質汚濁の影響を見るのに敏感な健康指標の選択が必要である。
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