1、 瀬戸内海港湾部における海水中のIrgarol 1051 1996年から.1997年にわたり、瀬戸内海沿岸の1府9県におけるマリーナ、漁港、貿易港において採取した海水93試料の内、24試料からIrgarol 1051を検出した。溶存態Irgarol 1051濃度は0〜264ng/Lであり、ヨーロッパで報告されている濃度範囲内にあった。1998年には岡山県南部の2定点で経時的測定を行い、すべての海水試料から本物質を検出した。以上のことから、本物質は主として小型のプレジャーボートおよび漁船用の船底塗料として使用されていると考えられた。ヨーロッパ以外での残留分析はこれが初報である。2、 Irarol 1051の光分解性評 野外実験により、1)水中の本物質は太陽光によって分解し、難分解性の分解産物M1を生成すること、2) 光分解速度は純水中よりも天然水中においてより早く、しかもM1の生成量は天然水中の方がより多いことを明らかにした。紫外線ランプを用いた室内実験によっても、野外実験での観察結果を再現することができた。 3、 Irarol 1051および分解産物の生態毒性評価 1) 分解産物の分離精製:分解産物Mlは異なる3種の分解経路(太陽光分解、木材腐朽菌による生分解、水銀を触媒とした加水分解)によって生成することを明らかにした。そこで、水銀化合物を触媒とした親物質の加水分解反応を利用してMlを大量に生成させ、HPLCを用いて分離精製した。 2) 急性・慢性毒性評価:マイクロバイオテストを活用した生態毒性試験により、分解産物M1の毒性を定量的に評価した。藻類および甲殻類に対するM1の毒性は親物質よりもやや弱かったが、藻類に対する阻害は市販の除草剤の活性に匹敵していた。また、親化合物は高等植物の幼根伸長に対して阻害を示さなかったが、分解産物は強い阻害を示した。
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