電離放射線によるDNAの損傷を修復することは、生物にとって重要な生体防御機能である。このような機能を欠損したためにおこるヒトの癌や遺伝病の発生機構に関する研究、また、修復遺伝子の個体での働きや修復機能を明らかにするには、それら遺伝子を同定し、その機能が欠損した実験動物を開発することが不可欠である。しかし、電離放射線によるDNA二重鎖切断修復遺伝子の同定、及びそれらを欠損した実験動物の開発は非常に遅れている。本研究の目的は、Two-hybrid法によりKu蛋白質と特異的に相互作用する蛋白質を同定し、それを用いて電離放射線感受性修復欠損マウス系統を樹立することにある。前年度までに、Two-hybrid法でKU p70及びKu p80と特異的に結合する蛋白質を同定するため、それぞれの全長をプローブにして2x10^6のクローンからなるcDNAライブラリーをスクリーニングし、数個の候補クローンを得た。ところで、この遺伝子クローニング法では偽陽性のシグナルを排除する必要がある。そのためには、プローブとする蛋白質の蛋白質結合領域を決定することが重要となる。そのため、さらに多くの候補遺伝子を得るために、本年度は、(1)Ku p70とKu p80の相互作用領域の同定をTwo-hybrid法で行った。その結果、Ku p70のKu p80との相互作用に必要な領域はamino acids 378-482で、一方、KU p80のKu p70との相互作用に必要な領域はamino acids 374-502であることが明らかになった。現在この情報をもとに、これら以外の領域をスクリーニングに使用している。また、(2)これら遺伝子産物の細胞内局在を免疫組織化学的な方法により解析した。その結果、Ku p70とKu p80は細胞分裂周期の間期に、ヘテロダイマーを形成して局在していることが確認された。今後、この情報は結合する蛋白質を同定するための基礎情報となる。現在、候補の蛋白質をコードするcDNAをサブクローニングし、GST融合蛋白質として大腸菌で発現させて、Ku蛋白質との結合性の確認、及びKu抗体を使ってin vivoで結合していることを確認する等の検証を行っている。
|