本研究は、安定同位体(^<13>C)で標識し、さらに化学修飾を施したシアル酸誘導体を糖タンパク質の糖鎖末端に糖転移酵素を用いて組み込み、シアル酸部分の配座をNMRで解析しながら、合成糖鎖誘導体の機能を調べることを検討した。まず、N-アセチルマンノサミンの6位をフッ素原子で修飾した誘導体を合成し、そして、[3-^<13>C]-ピルビン酸をアルドラーゼ存在下縮合させ、9-デオキシ-9-フルオロ-[3-^<13>C]-シアル酸を合成した。続いて、このシアル酸誘導体をシチジン-5'-アミダイト誘導体と縮合させて、シチジン-5'ーリン酸-9''-デオキシ-9''-フルオロ[3''-^<13>C]-シアル酸(CMP-シアル酸誘導体)を合成した。また、1位から6位までが^<13>Cで標識されたグルコースを出発原料とし、酵素法をもちいてウリジン-5'-ピロリン酸-[U-^<13>C]-ガラクトース(UDP-ガラクトース)を合成した。次に、得られたUDP-ガラクトースとCMP-シアル酸誘導体をそれぞれ、β-(1→4)-ガラクトース転移酵素、α-(2→6)-シアル酸転移酵素を用いて糖たんぱく質であるオブアルブミン上の糖鎖末端のN-アセチルグルコサミンに転移させ、9''-デオキシ-9''フルオロ-[3''-^<13>C]-シアル酸-α-(2→6)-[U-^<13>C]-ガラクトース-β-(1→4)-N-アセチルグルコサミンという配列の糖鎖を合成することに成功した。そして、HMQC、^1H-^<19>F-HMQC、HMQC-TOCSY、HMQC-NOESYなどのNMR測定を行って、標識されたシアリルガラクトースの部分だけを測定しその配座を含めた構造解析に初めて成功した。また、得られた配座解析のデータとシアリルオリゴ糖単独の配座解析の結果を比較すると、今回合成した誘導体においてはタンパク上とオリゴ糖単独でも配座にはそれほど大きな相違はないことが判明した。
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