研究概要 |
神経芽腫は、神経冠から発生する悪性腫瘍で予後因子としてはN-myc遺伝子の増幅、trkA遺伝子の発現の有無などが用いられている。予後不良な神経芽腫のうちN-myc遺伝子増幅例においては、神経栄養因子NGF(nerve growth factor)の高親和性レセプターであるTrkAをコードしているtrkA遺伝子の発現は極めて低い。ヒト正常体細胞のほとんどはテロメラーゼ活性を持たず、分裂回数の増加とともにテロメアDNAが短縮し、有限の分裂寿命を示す。これに対して生殖組織とほとんどの癌組織にはテロメラーゼ活性があり、細胞分裂を繰り返してもテロメアDNAが短縮せず、無限の分裂寿命を持つ。正常体細胞と癌細胞のこのような大きな違いからテロメラーゼを阻害することで癌細胞を有限寿命化し、死滅させることができるものと期待され、分化誘導された神経芽腫細胞においてはテロメラーゼ活性の抑制が期待される。そこで、神経分化誘導剤エポラクタエンをリ-ド化合物として神経芽腫細胞において神経樹状突起を伸展させる活性を有する低分子分化誘導剤の開発を行った。用いた細胞は、ヒト神経芽腫細胞SH-SY5Yおよびラットクロム親和性褐色腫細胞PC12である。蛋白質レベルでの高親和性レセプターの発現パターンをWestern blotting法により検討した結果、SH-SY5Y細胞はTrkA(-)、PC12細胞はTrkA(+)であった。各種エポラクタエン類縁体のSH-SY5Y細胞、およびPC12細胞における神経樹状突起伸展能を比較検討の結果、顕著な神経分化誘導活性を有するMT-5,MT-19,MT-20などを見出した。MT-5,MT-19,MT-20はいずれも3-ピロリン-2-オン骨格を有する化合物である。一方、由来の異なるヒト神経芽腫細胞SMS-KCNを入手したので、今後、高親和性レセプター発現パターンとテロメラーゼ活性との相関パターンを検討する予定である。
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