研究概要 |
最近までに,正常体細胞ではほとんど認められないテロメラーゼ活性が,さまざまな癌組織には高頻度で検出されるといった知見が集まり,癌の形成におけるテロメラーゼ活性化の関与が示唆されている。そこで,テロメラーゼ活性阻害物質を探索するためのバイオアッセイ系を構築し,テロメラーゼ活性阻害物質の探索を行った。 これまでに,テロメラーゼ活性の高感度検出法としてPCRを利用したTRAP法が報告されている。このTRAP法を基にしてwax barrier不要のhot start法やstrech PCRのプライマーを取り入れることにより,微生物代謝産物から簡便かつ定量性良く阻害剤を検出するための探索系を確立した。本研究では,テロメラーゼをヒト白血病細胞U937のS100画分を調製して用いた。 スクリーニングの結果,カビの生産するalterperylenolが阻害活性を示すことを見いだした。alterperylenolはPCR反応を阻害することなく,テロメラーゼ反応を100μM以上の濃度で阻害した。一方,その類縁体であるaltertoxin I(5,6位の二重結合が飽和した化合物)は1mMでも阻害せず,テロメラーゼ阻害活性には分子内のα,β-不飽和カルボニル基が重要であることが示唆された。さらに,alterperylenolをU937細胞へ処理し,細胞レベルでのテロメラーゼ活性に与える影響について検討したところ,U937細胞の生存率に影響を与えない1μMの濃度で,20時間後にtelomerase活性の減少が確認された。以上よりalterperylenolが特異性の高いテロメラーゼ阻害剤であることが明らかになり,今後,癌細胞と正常細胞におけるテロメラーゼの必要性に関する研究に有用であろう。
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