カルモデュリン依存性プロティンキナーゼII(CaMKII)は代表的な多機能性セリン・スレオニンプロテインキナーゼの一つであり、中枢神経機能の制御に深く関わっている可能性が示唆されている。本酵素においてはThr^<286>の自己燐酸化によってその活性が制御されていることはよく知られているが、この部位の脱燐酸化についてはまだあまり研究が進んでいない。今回我々は合成ペプチドを用いたプロテインホスファターゼの簡便なアッセイ法を新たに開発し、これを用いてCaMKIIのThr^<286>を脱燐酸化してCaMKII活性を制御していると考えられる新規プロテインホスファターゼ(PPase)をラット脳幹より単離することに成功した。さらにその酵素学的諸性質についても詳しい解析を行った。 CaMKIIのアミノ酸残基281-289に相当する合成ペプチドを磁気粒子に固定化し、これをCaMKII活性フラグメントで燐酸化してPPaseの基質とした。ラット脳抽出液中のPPase活性を調べたところ、ポリ-L-リシン(PLL)存在下にカリクリンA非感受性でMn^<2+>依存性のPPase活性が検出されたので、これをラット脳幹より精製した。精製されたPPase(CaMKIIホスファターゼ;CaMKIIPase)はSDS-PAGE上、54kDaを示すモノマー酵素であり、100nMカリクリンAまたは10μMオカダ酸によって全く阻害されなかった。活性にはMn^<2+>を必要とし、PLLやプロタミン等のポリカチオンによって顕著に活性化された。PLL存在下で自己燐酸化CaMKIIはCaMKIIPaseによって速やかに脱燐酸化されたが、代表的なPPase基質としてよく用いられるヒストンやホスホリラーゼaなどの燐酸化蛋白質は本酵素の基質にはならなかった。更に自己燐酸化CaMKIIをPLL存在下にCaMKIIPaseとともにインキュベートするとCa^<2+>/カルモデュリン非依存性活性の顕著な低下が観察された。以上の結果から、CaMKIIPaseがCaMKIIに対して特異性の高いPPaseとして、細胞内のCaMKII活性の制御に関わっていることが示唆された。
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