大腸菌における蛋白質膜透過反応において、ATPase活性を持つSecAはATPの結合により膜挿入し、加水分解を伴って膜から脱離するというサイクルを繰り返すと考えられている。申請者らは、膜内在性因子SecGが膜内配向性の反転・回復サイクルを繰り返すといった、膜蛋白質に対する常識を覆すほど大きな構造変化を引き起こしていることを発見している。膜透過反応におけるSecGの機能と膜内配向性の反転との関連を明らかにするため、種々のsec変異株のsecG遺伝子破壊を行った。secG遺伝子破壊により菌は低温感受性となるが、secAcsR11株のsecG遺伝子を破壊するとあらゆる温度で生育不能となった。このことはSecAとSecGの間に機能的相互作用があることを強く示唆している。このsecAcsR11株の変異部位を決定し、変異SecA(csSecA)を精製して生化学的な解析を行った。その結果、csSecAは前駆体蛋白質との相互作用が弱くなっており、csSecAによる蛋白質膜透過にはSecGが必須であることが判明した。また、csSecAの膜挿入もSecG依存であった。これらのことからSecA-SecG間には機能的に密接な関係があることが示された。 蛋白質膜透過反応はプロトン駆動力により促進される。次にプロトン駆動力がSecA-SecGサイクルに及ぼす影響を調べた。その結果、SecAのATPase活性を阻害して膜挿入SecAの脱離を阻害してもプロトン駆動力を形成させるとSecAは脱離することを発見した。すなわち;プロトン駆動力により膜挿入SecAがATPの加水分解を必要とせずに脱離し、その結果膜透過が促進されると考えられる。また、低温下でSecGが存在しないとき、プロトン駆動力により膜挿入SecA量が増加することも判明した。このことは、プロトン駆動力がSecAの脱離のみに関与するのではなく、膜挿入も促進していることを強く示唆している。
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