研究概要 |
αヘリックスは蛋白質を構成する二次構造の1つである。申請者は、アミノ酸配列とαヘリックスの安定性の関係を調べるために、(LeuGluThrLeuAlaLysAla)_3という配列を持ち、Leuによる疎水面とLys,Gluによる親水面から成る両親媒性のペプチド(以下α3と呼ぶ)を遺伝子工学の手法を用いて合成し、物理化学的性質を調べている過程で、α3は会合体を形成して安定なαヘリックスを形成すると共に、他のαヘリックス形成ペプチドとは異なり、直径5〜10nmの繊維状集合体を形成することを見い出した。本研究では、α3がこのような繊維状集合体を形成する構造要因を明らかにするために、α3の配列を基本として、その長さや繰り返し数、そしてユニットのアミノ酸配列を変えたペプチドを合成し、円二色性(CD)スペクトルを測定してαヘリックス安定性を調べると共に、透過型電子顕微鏡を用いて繊維状集合体形成の有無や形状について調べた。まず、α3のユニットの配列の繰り返し数を3回から4回にしたところ、そのペプチドは溶液のpHや塩濃度によってαヘリックスの安定性があまり左右されない非常に安定なαヘリックスを形成すると共に、α3と同様の繊維状集合体を形成することがわかった。しかし、繰り返し数を2回としたペプチドではαヘリックスの形成を示すCDスペクトルは得られず、繊維状集合体の形成も観察されなかった。すなわち、αヘリックス形成のためにはある程度の長さが必要であり、ペプチドを長くしてペプチドの疎水性を高めるとαヘリックスが安定化することが明らかとなった。一方、α3の配列を全く逆にしたペプチドは、N末端近傍にLys、C末端近傍にGluがあるにもかかわらずα3よりも安定なαヘリックスを形成すると共に、α3で観察された繊維状集合体よりも太くて長い集合体を形成し、その形状は溶液の塩濃度によって変化することが明らかとなり、ペプチド内の荷電状態の寄与が示唆された。
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