血小板活性化因子(以下PAF)受容体を高発現するトランスジェニックマウスを樹立したところ、予想外の表現形として、色素沈着と表皮の肥厚、つまりメラノサイトとケラチノサイトとの増加が観察された。本研究では、この表現形を詳細に検討することにより、皮膚細胞におけるPAFの役割を調べた。 in situ hybridization法による導入遺伝子の発現検討から、ケラチノサイトにはPAF受容体遺伝子が多量に発現していたが、メラノサイトには発現が認められなかった。また、メラノサイトの増加の認められない背中の皮膚などでもケラチノサイトの増加は認められた。ケラチノサイトの分化のマーカーであるサイトケラチンK1及び、フィラグリンの免疫染色結果、及び、増殖細胞の比率を表すin vivoでのBrdU取り込み細胞の測定により、基底細胞の増殖が亢進して、表皮層が厚くなっているが、角化細胞への分化は、ほぼ正常に近く保たれていることが示された。そのため、PAFはケラチノサイトに対して増殖因子として働き表皮を肥厚させ、その結果、ケラチノサイト由来の何らかの増殖因子の影響で、メラノサイトの増殖が惹起されていると考えられた。さらに、PAFの拮抗剤を含む軟膏を、トランスジェニックマウスの片側の背中・耳の皮膚に塗布したところ、プラセボを塗布した側に比し有意にBrdUの取り込みが減少し、PAFが増殖作用を持っていることが強く示唆された。 以上のことより、培養線維芽細胞と同様にケラチノサイトに対しても、PAFが増殖の亢進作用を示すことが、トランスジェニックマウスを用いたin vivoの系でも示された。
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