ヒト乳癌細胞の増殖及び浸潤転移におけるエイコサノイドの役割を調べた。まずヒト乳癌細胞株のうち、エストロジェンレセプターを発現している(ER+)細胞株(MCF-7)と発現していない(ER-)細胞株(MDA-MB-231、MDA-MB-435、H_S578T)をそれぞれ超音波破砕し、^<14>C標識のアラキドン酸とインキュベートしたところ、MCF-7、MDA-MB-435、H_S578Tでは有意なアラキドン酸代謝活性は認められなかったが、MDA-MB-231ではプロスタグランジン(PG)E_2、PGF_<2α>、PGD_2などのシクロオキシゲナーゼ(COX)産物が生成された。また、これらの細胞を1μMのPhorbol Ester(TPA)で刺激した後アラキドン酸代謝を調べると、MCF-7では有意な活性を認めなかったが、MDA-MB-435ではわずかの、またH_S578Tでは50倍程度のCOX産物の産生増加が認められた。MDA-MB-231では、TPAによる刺激の前後で、COX活性に有意な変化は認めなかった。H_S578Tで誘導されてくるCOX活性は、COX-2蛋白の発現増加によることが、この酵素に特異的な抗体を用いたウェスタンブロットで示された。そこで、H_S578TにおけるCOXの役割を調べるため、この細胞にヒトCOX-1とCOX-2の_CDNAを組み込んだ発現ベクターをトランスフェクトし、安定形質発現株(H_S578T_<COX1>とH_S578T_<COX2>)を得た。1μMのTPAの存在下で、H_S578T_<COX1>では、matrix metalloproteinase-2(MMP-2)の活性化が促進されていることが、ゼラチンザイモグラフィーで示された。今後は、複数のクローンでこの現象を確認するとともに、MMP-2の活性化の促進が膜型MMP(MT-MMP)の発現上昇に基づいていることをノザンブロットで確認するのをはじめ、COX-1の過剰発現による1μMTPA存在下でのMMP-2の活性化機構について、詳細な検討を加えていく予定である。
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