今年度の主な研究成果は以下のとおりである。 1.Two Hybrid法によるLIMK相互作用分子の検索:LIMキナーゼ(LIMK)の相互作用分子をTwo-Hybrid法でスクリーニングし、既知・新規合わせて56種もの相互作用分子を同定した。その内LIMK1相互作用分子としては既知のものが18クローン、新規のものが9クローンで、細胞骨格系の蛋白やDNA複製装置の蛋白、さらに新規のZinc-Finger蛋白も含めて数種の転写因子が含まれる。一方、LIMK2からは既知のものを14クローン、新規のものを15クローン同定しており、やはり細胞骨格系の蛋白や転写因子が含まれる他に核分裂装置の蛋白やWntカスケードに関わる分子などが含まれている。現在、これらの相互作用分子についてLIMKとのin vitroでの結合の確認や新規クローンの全長cDNAの分離等の解析を進めている。 2.生化学的なLIMKの機能解析:COS7細胞に発現させたリコンビナントLIMKにより自己リン酸化能を解析した。その結果、LIMK1、LIMK2ともに自己リン酸化が起こることが確認され、特にLIMK2ではセリンおよびチロシン残基がリン酸化されており、LIMK2がDual Kinaseであることが示された。 3.LIMK2のゲノム解析および組織特異的バリアントの解析:LIMK2のゲノムDNAを単離しその解析を行った。また、LIMK2には2種類の組織特異的バリアントが存在することを見い出し、それが特異的エクソンとのalternative splicingによって起こることも見い出した。その一つはLIMドメインを1つ欠いたもので脳に特異的に発現しており、一方はLIMドメインを二つとも欠いたもので精巣特異的に発現している。精巣特異的なバリアントはLIMK2相互作用分子の1つ(EB251、仮名)でも見つかっており、その発現挙動がLIMK2と一致することから精子形成過程における両バリアントの機能的連携が示唆された。 4.新規LIMK2結合蛋白質limkain β1の構造ならびに発現解析:今年度は多数の相互作用分子のうちlimkain β1と名付けた新規LIMK2結合蛋白質の解析を行った。limkain β1は1735アミノ酸の大きな蛋白質でN末端にシステインに富んだ構造を、C末端にはYGリピートと名付けたチロシン-グリシン残基が保存されている繰り返し構造を持っている。相互作用に関与する領域を決定したところLIMK2はそのC末端で、limkain β1はシステインリッチな領域とYGリピートの間に位置するLBD (LIMK binding domain)と名付けた領域で結合していることが判った。limkain β1は成体ではLIMK2と同様に広い組織に発現しているが、初期胚でのin situ解析では神経系に発現が見られ神経系での機能が示唆された。
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