ミトコンドリアは、真核細胞内で主として呼吸によるエネルギー生産の役割を担っているオルガネラで、外膜と内膜と呼ばれる2重の生体膜に囲まれている。ミトコンドリア蛋白質の大部分は、核の遺伝子によりコードされており、細胞質で前駆体蛋白質として合成された後、ミトコンドリアへ移行する。ミトコンドリア外膜に存在する蛋白質膜透過装置を構成する蛋白質の構造と機能に関する詳細な解析は、現在までのところ、ほとんど行われていないというのが現状である。本研究では、ミトコンドリア外膜の蛋白質膜透過装置において中心的役割を担っているTom40蛋白質について、その外膜上でのトポロジーの解析、Tom20、Tom22等の他の構成蛋白質との相互作用領域の検索、さらには、前駆体蛋白質の膜透過に直接関与する機能領域の同定を目指した。酵母ミトコンドリア外膜のTom40蛋白質は、388アミノ酸残基からなり、一次構造上、特に疎水性の高い領域はみられないが、膜内在性の蛋白質である。その外膜上でのトポロジーに関しては、外膜の細胞質側と膜間部側、両側に露出したドメインを有するが、一次構造上のどの領域がどちら側に露出しているのかなど詳細な情報はまだない。本研究では、まず、Tom40蛋白質の様々な領域に、モノクローナル抗体が認識するエピトープタグ、あるいは、プロテアーゼである(factor Xa)が認識・切断する配列を挿入した改変Tom40蛋白質をデザインし、それらの改変Tom40蛋白質をコードする変異Tom40遺伝子を多数構築した。この変異遺伝子を、酵母細胞内で発現させ、それが、Tom40蛋白質としての機能を保持しているかどうかを解析した。その結果、変異の挿入位置に応じて、機能が損なわれる場合があった。現在、ミトコンドリアにおける改変Tom40蛋白質に対するモノクローナル抗体の結合性や、factor Xaの反応性を指標として、これらの配列を挿入された領域が、外膜上、どちら側に存在しているのか解析している。
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