申請者はこれまでに、細胞内情報伝達系において重要なSer/Thrリン酸化酵素であるプロテインキナーゼC(PKC)δ、ε、及びθが細胞のapoptosisに伴い限定分解を受け、その結果活性性を有したままの活性部位断片と制御部位断片が細胞内に蓄積することを明らかにした。今回は、apoptosisにおけるPKC限定分解の生理的意義を明らかにするため、リコンビナントのPKCδ活性部位断片、及び制御部位断片を作製し、マーカー遺伝子、GFPと共に、COS1細胞、或いはHeLa細胞への導入実験を行った。野性型のPKCδを導入した細胞ではベクターのみを導入したコントロールに比べて変化は認められなかったが、活性部位断片を導入した場合、GFPを発現した細胞の数が極端に減少し死細胞が多く見られた。PKCδ活性部位断片を発現した細胞の一部にはapoptosisの特徴である細胞の縮小や核の凝集、或いは断片化が認められた。点変異を加えることにより活性型としたPKCδの場合も同様の結果が得られたこと、ATP結合部位に変異を加えた不活性型の活性部位断片ではこの様な効果が見られないことから、PKCδは限定分解により活性化され、何らかの基質のリン酸化を介することによりapoptosisの進行に寄与していることが示唆された。一方、PKCδ制御部位断片を高発現したCOS細胞では、コントロールに比べ多核を呈した細胞の割合が有意に増えた。これは細胞質分裂が阻害されたことによると考えられるが、野性型PKCδではこの様な効果は見られなかった。即ち、限定分解により生じたPKCδの制御部位断片は細胞分裂を抑制することによって細胞の正常な増殖周期を阻害し、細胞がapoptosisのシグナルを受けやすくしているものと考えられた。
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