UDP-グルクロン酸転移酵素ファミリー1(UGT1)が欠損すると、遺伝性高ビリルビン血症が引き起こされる。ヒトではCrigler‐Najjar症候群(CN)と呼ばれる一連の症例が知られており、血中ビリルビン濃度により重症のCN‐Iと比較的軽症のCN‐IIに分類される。またCN-Iのモデル動物としてGunn ratが知られている。本研究では、これらの原因となる変異UGT1夕ンパク質の細胞内での局在や分解過程などを解析した。 【Gunn ratの変異型UGT1タンパク質】(1)ラット肝より初代培養細胞を調製し、正常型(WT)および変異型(GR)の分解をPulse-chase法により調べた。半減期はWTが約10時間であったのに対し、GRの分解は約50分に加速されていた。(2)肝細胞をN‐a‐acetyl‐Leu‐Leu‐norleucinalやラクタシスチンなどで処理するとGRの分解が抑制されたので、GRの分解にユビキチン-プロテアソーム系が関与していることが示された。(3)WTおよびGRをCOS細胞内で発現させこれらの分解を調べた結果、半減期はそれぞれ9.9時間および3.3時間であった。(4)COS細胞においても肝細胞と同様にGRの分解がプロテアソームの阻害剤で抑制された。(5)WTとGRはどちらも小胞体内腔側に局在するが、WTが膜に挿入されるのに対しGRは膜に挿入されなかった。GRはその生合成過程において一旦小胞体内腔に取り込まれるものの、その構造上の変異が元で不安定になり何らかの機構を介して細胞質側のプロテアソームにより分解される事が示された。 【ヒトの変異型UGT1タンパク質】(1)ヒト肝mRNAを用いてRT-PCR法により、ビリルビン代謝型の主要分子種であるUGT1A1のcDNAを作成した。(2)このcDNAの一部の断片を用いてヒスチジン-タグとの融合タンパク質を大腸菌内で発現させた。これを精製したものをウサギに免疲し、ヒトUGTlタンパタ質を認識する抗体を調製した。(3)得られたcDNAを元にしてCN-Iに分類される変異体Q357End(357番目のグルタミン酸コドンが終始コドンに変異)、およびCN-IIに分類されるLl5R(15番目のロイシンがアルギニンに置換されシグナル配列に異常のある変異)を部位(特異的変異導入法により作成した。(4)WT、Ll5R、およびQ357EndをCOS細胞内で発現させた。半減期はWTが12.2時間、L15Rが1.8時間であった。今後は分解の半減期を解析すると共にプロテアーゼ阻害剤の変異体の分解に及ぼす影響を検討し、分解過程を詳細に解析する。
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