哺乳類細胞のDNA複製開始機構を明らかにするために、マウスのDNAポリメラーゼα・プライマーゼ複合体(Pol.α)を標的とし、その活性制御機構の解明を試みた。今年度は動物培養細胞を用いたcDNA発現系を駆使し、マウスのPol.αの各サブユニットの機能解析に取り組んだ。その結果、DNAポリメラーゼ触媒サブユニット(p180)とこれまで機能不明であった第2のサブユニット(p68)の興味深い相互作用を見出した。 各サブユニットのcDNAをSRaプロモーターの下流に組み込み、動物培養細胞中で一過性過剰発現させた。得られた翻訳産物を蛍光抗体染色法並びにWestern blot法により検出した。また、細胞抽出液を調製し、ウシ胸腺由来の活性化DNAを基質としてDNAポリメラーゼ活性を測定した。p68及びp180をCOS-1細胞中で同時に発現させたところ、p68の発現量に依存してp180の蛋白量が顕著に増加することと見出した。また、p180の発現量の増加に対応して、DNAポリメラーゼ活性も著しく増加した。このp68によるp180の発現量の増加は、特異的な蛋白質間相互作用に基づいており、転写制御以降のレベルで生じていた。一方、p180 : p68ヘテロダイマーの核移行シグナル(NLS)がp180のC末端に位置すること、このNLSが機能するためにはp68とp180の相互作用が必要であること、も示された。従って、p68がDNAポリメラーゼ触媒サブユニットの生合成過程に於いて重要な役割を担うことが示唆された。即ち、p68は、1)p180の効率的な翻訳を助長し、2)p180の核への移行に必須であること、が示された。
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