これまで、腸内連鎖球菌Enterococcus hiraeから多剤耐性株を単離し、その多剤耐性機構を解析してきた。申請した時点で、それが(1)ethidiumなどの脂溶性カチオンを排出する多剤排出系に寄る多剤耐性であること、(2)この多剤排出系はATPの水解によるエネルギーを利用して薬物を能動的に排出すること、(3)基質スペクトルは動物細胞のP-糖タンパク質に類似する、などが解っていた。その後、Koningsらにより近縁のLactococcus lactisからATP駆動型多剤排出ポンプLmrA(lmrA遺伝子産物)が採られ、P-糖タンパク質との相同性なども示された。 そこで、相同性を利用して我々のE.hiraeから多剤排出輸送担体遺伝子の単離を試みた。しかし、lmrA様遺伝子の存在は確認出来ず、E.hiraeに存在する多剤排出輸送担体を相同性から単離・同定するのは限界があると考えられた。そこで次に、大腸菌を宿主にしてethidiumに耐性を示すことを指標にショットガン法による耐性locusの同定を行った。その結果、これまでに2種の別個のlocusを得た。一つはE.hiraeの16SrRNA領域をコードする約3kbのフラグメント(pSG35)。もう一つは、詳細はまだ不明な約1.7kbのフラグメントである(pSGBS1)。現在pSG35の薬剤耐性様式・機構を解析中であり、(1)deletion解析の結果、16SrRNA自体がethidium耐性に寄与すると考えられること、(2)ethidiumの他、crystal violet、TPP、acriflavine、norfloxacinに耐性を示す多剤耐性であること、(3)多剤耐性E.hirae由来のこのクローンは、野生型E.hiraeの16SrRNA領域から7カ所の置換を持つが、野生型16SrRNA領域も同様の多剤耐性を示すこと、(4)大腸菌の16SrRNA領域は多剤耐性を示さないこと、など明らかにした。このクローンの導入で、ethidiumの細胞内蓄積量に変化がなかったことから、これまで報告のある多剤排出系による多剤耐性とは異なると思われるが、現在の所、その分子機構は不明である。 もう一つのクローンpSGBS1は、全塩基配列決定、deletion解析の結果、遺伝子発現調節タンパク質をコードすると考えられる。大腸菌に導入されることで大腸菌の何らかの多剤排出系を誘導し多剤耐性を示したと考えている。他の多剤排出系との比較から、E.hirae中でこれと隣接する遺伝子を解析することにより、E.hiraeの多剤排出ポンプの解明につながると考えており、今後その同定を行う予定である。
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