研究概要 |
抗体分子の抗原に対する認識能の特徴は高い特異性と親和性にあり、その機構解明は蛋白質の分子設計を行う上で多くの有益な知見を与える。申請者らは、抗原抗体双方に変異を導入し相互作用を解析できる系を構築し、この系を元に、遺伝子工学による部位特異的アミノ酸置換法ならびに滴定型熱量測定により抗原抗体反応の詳細な解析を行ってきた。本研究では、抗体分子の自在な設計を目指し、以下の二つの観点から、研究を遂行した。(1)進化工学的手法による抗体分子の機能変換:申請者らがニワトリリゾチーム(HEL)とそのモノクローナル抗体HyHEL10の相互作用に着目し、遺伝子工学による部位特異的アミノ酸置換ならびに滴定型熱量測定により、抗原抗体反応の詳細な解析を行ってきた。抗体の抗原認識領域に着目し、PCR法を用いて、無作為変異を導入した。遺伝子産物をファージ表面に提示し、申請者らが開発したオープンサンドウィッチ法により、野生型が殆ど認識できないヒトリゾチーム、弱い結合能しか持たないシチメンチョウリゾチームに対する高い特異性、親和性を有する変異体を選択した。前者は二つのCDR、後者は一つのCDRへの変異導入によって、その機能変換が可能となった。(2)抗原抗体反応における水素結合の役割:HyHEL10の軽鎖Asn31, Asn32, Gln53, Tyr96、重鎖Ser31, Tyr33, Tyr50に着目し、変異導入を行い、熱量測定により相互作用を解析したところ、抗原の主鎖との水素結合形成に関与する残基の寄与が非常に大きく、抗原側鎖との水素結合が、申請者らが見出した、塩橋の役割と全く同じ傾向を示すことが明らかになった。
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