プリオン蛋白質はヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病、ウシ海綿状脳症(狂牛病)などの致死性の神経変性疾患の原因となることが知られている。この本来の機能的役割は不明であるが、最近、プリオン蛋白質が銅結合蛋白質であり、脳神経細胞の高い銅(II)レベルの維持に関与していることが明らかにされた。本研究はプリオン蛋白質の機能と病原性メカニズムを解明することを目的として、銅結合領域であるアミノ末端領域のPHGGGWGQオクタペプチド繰り返し配列の構造と性質について詳細な検討を行っている。これまでに得られた成果を以下に記す。(1)銅(II)イオン濃度が高い条件下では、繰り返し配列のオクタペプチドユニットに対して各々1個の銅(II)イオンが結合する。しかし、銅濃度の低下につれて、2ユニットに対して銅1個が結合した別の複合体に転移する。これらの状態では、銅複合体形成に関わる配位子の種類と数が異なる。(2)これらの複合体構造は共に隣接ペプチド鎖にαヘリックス構造の形成を誘起する。オクタペプチドと銅(II)の結合はαヘリックスに富む立体構造の安定化に寄与していると考えられるが、以上の結果から低銅(II)イオン濃度下においてもαヘリックス構造を維持するための巧妙な仕組みをオクタペプチド繰り返し配列が持っていることが明らかになった。また、ペプチドと金属の相互作用を解析するために、ヒスチジンのラマンスペクトルに関する基礎的研究も行った。現在、オクタペプチドと銅(II)の複合体のより詳細な構造解析を進めている。
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