今年度は、蛋白質の構造安定性と物性に関するシミュレーションが進展したので計算結果を以下に報告する。水溶性球状蛋白質であるprotein G B1 domain分子の分子動力学計算を真空及び水中で行った。この分子はアミノ酸56残基からなる小さな蛋白質である。内部にS-S結合を持たず、ベータシートを主体とし、1本のヘリックスを持つ安定な3次構造をとる。真空中で複数(50)本の熱変性シミュレーションを行うことで変性における異なる時定数をもつ緩和過程を統計的に有意に分離することができた。そしてそれらが局所的構造と非局所的な構造が崩壊する過程という蛋白質構造の階層性の表れであることを確認した。またこの蛋白質はC末端側が構造的に不安定であり、変性シミュレーションでも最初にそこから壊れた。その領域には酸性残基が集中しており、それが不安定性の原因であることが強く示唆された、同時に水溶液中の変性シミュレーションも行い、定性的には同様な現象が水中でも生じることを確かめた(分子研Supercomputer Workshop '97発表)。また水溶液中の天然状態で平衡化したこの蛋白質分子における誘電的応答もMDシミュレーションで調べ、実効誘電率という電気的な遮蔽効果を表すパラメタがほぼ電荷間距離に比例して増加することがわかった。つまりこの場合、蛋白質溶媒系は一様な誘電率を持つ連続体として近似することが可能であった。そしてこの遮蔽効果はクーロン力のカットオフによって失われることがわかり、遠方の水分子の配向が遮蔽にとって重要な役割を果していることがわかった。これはこれまでの誘電体モデルによる計算と実験との一致を裏付けるものであった(日本生物物理学会第35回年会発表)。アミノ酸溶解度実験では未だいくつかの溶媒に関して部分的なデータしか得られていない。
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