構造安定化溶媒(ソルビトールなどポリオール、フッ素化アルコールなど)の存在下におけるアミノ酸の溶解度の実験値が得られたので、それを元に蛋白質の天然構造から熱力学的安定性を計算するソフトをほぼ開発した。現在、変性状態をモデル化した安定性評価ソフトを開発し、共存溶媒の安定性に及ぼす効果を実験との間で比較しつつある。 次にモデル蛋白質としてproteinGのB1ドメインを用い、構造と安定性、その形成の動的メカニズムへの溶媒の効果を明らかにするために、残基を置換した蛋白質分子による複数本の変性シミュレーションを真空中と水溶媒中で行った。真空中におけるシミュレーションでは分子の広がりが水溶媒中における変性状態における広がりに比べて、小さく、天然状態の2-3割程度の増加でほぼ落ち着いた。一方、分子内の原子間の接触は天然構造の時の原子ペア間の接触が失われるのに対して、新しいペアが形成され、構造形成における中間体であるモルテングロビュール状態様であることがわかった。また構造要素として安定であると予測されている、N末端近傍の疎水性残基の核が安定化され、そのせいでヘッリクス構造のN末端側の構造も安定化されていることが強く示唆された。今後は構造安定化に関するより詳細な過程を解析し、実験と比較しながら蛋白質の構造形成と溶媒効果の問題を解明し、定量的な理論の精密化を行う予定である。 また蛋白質の重要な構造要素であるヘリックスの構造形成過程を理解するために、アラニン15残基のペプチドに対して分子動力学シミュレーションを行った。そのヘリックス-コイル転移における揺らぎの周波数依存性が1/fであることを見いだし、その構造形成や安定性における意義を探求した。
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