「細胞骨格系のアクチン線維と結合した細胞膜の膜貫通型蛋白質が、アクチン線維間の滑り運動によって細胞膜上を輸送されている」という仮説を検証するのが、本研究の目的である。この目的を達成するため、αC1と名付けられた細胞間接着分子E-カドヘリンの人工変異体を用いて、以下のような実験を行なった。 αC1分子の細胞膜上での運動を、金コロイド粒子標識による一粒子追跡法で測定した。その結果、分子が間欠的に方向性のある運動を行うことが分かった。 方向性運動が、細胞内のATPに依存することが確かめられた。また、野生型のE-カドヘリン分子においても同様の運動が起こることが分かった。 上のような間欠的な方向性運動が、1分子測定で常に問題となる統計的な揺らぎによる見かけの運動でないことを明らかにするため、一粒子の運動軌跡から、統計的に有為な方向性運動を取り出すためのデータ処理法を開発した。これは、1運動軌跡内の微小時間範囲における粒子位置の2乗変位、運動軌跡のgyration parameter、進行方向の角度変化の分散の各パラメータを、ランダムウォークにおける同じパラメータの分布と比較することによるものである。 細胞膜骨格のアクチン線維の運動を直接測定するために、2光子励起法を応用した蛍光褪色回復法を開発した。この法は、深さ方向に約1μmの空間分解能をもっており、細胞膜直下のアクチン線維についた蛍光色素だけを選択的に光褪色することができる。
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